スペシャルティコーヒー店の経営|なぜTAOCA COFFEEは「物販」で勝負したのか?カフェ業態の限界と戦略

神戸発のスペシャルティコーヒーロースター「TAOCA COFFEE」。
その創業者・田岡英之氏を迎え、スペシャルティコーヒーに懸ける想い、ブランドを支える仕組み、そして“お家のコーヒーをもっと美味しく”という理念の背景を4部構成でお届けします。

“コーヒーで人の心の温度を上げる”──
理念を貫く経営者の言葉のひとつひとつが、今後のコーヒービジネスのヒントとなるはずです。


【Part1】“家で美味しいコーヒー”を届けたい──田岡英之が語る、TAOCA COFFEE創業の原点

Part1では、東京初出店となる南青山の新店舗の構想から、創業当時の赤字からの逆転劇、そして理念として掲げる「家庭にコーヒーを届ける」ビジョンまで、創業者ならではのリアルな声をお届けします。

■ 豆を届けるために、まず「飲んでもらう」

南青山に構える新店舗には、平日でも多くの人が訪れ、ベンチでコーヒーを楽しむ姿も見られます。田岡さんは、オープン当初からカフェ利用が多いことを織り込み済みで設計していたと語ります。

「まずは店で飲んでもらい、“美味しい”が広まれば自然と豆が動き出す。僕たちは、お家のコーヒーを美味しくしていくお店です」

物販への導線としてのカフェや試飲提供は、今もTAOCA COFFEEの根幹にある戦略です。

■ スペシャルティとの出会いと、ブルーオーシャンの選択

前職は大手コーヒーチェーンのドトールで8年間勤務。新業態開発にも携わるなかで、田岡さんは「低単価・大量回転」のビジネスモデルに限界を感じたと語ります。

そんな折に出会ったのが、スペシャルティコーヒー。
「味に衝撃を受けた。自分が売るほど、生産者のためになる──これを商売にしたいと思った」

当時はまだ“スペシャルティ”の流通が1%にも満たない時代。東京ではなく、あえて地元関西に戻り、“さざ波も立っていない”市場に挑みます。

■ 赤字続き、閉店寸前──それでも「攻めた」

開業半年で運転資金が尽き、閉業の二文字が現実味を帯びた日々。それでも田岡さんは「延命ではなく攻める」姿勢を貫き、ポスティングなどに予算を使い続けました。

迎えた12月、半年間で築いた顧客がギフト需要とともに一気に来店し、初の黒字を達成。

「営業スタイルは変えず、2年で結果が出なければやめると決めていた。攻め続けたからこそ、潮目が変わったと思います」

■ 今も続く「手書きのメッセージ」

TAOCA COFFEEの通販には、今も変わらず手書きのメッセージが添えられています。創業当初から続けているこの取り組みが、多くの人の心に響き、ブランドの温かみを体現しています。

「理念に沿ったことは、どれだけ効率が求められても、やめるつもりはありません」

洗練された店舗デザインの裏にある“人の手の温度”が、TAOCA COFFEEのもう一つの強さなのです。


【Part2】バリスタ競技会への挑戦と全自動スペシャルティコーヒーマシン「FURUMAI」導入の背景|TAOCA COFFEEが考える新たな顧客体験とは?

スペシャルティコーヒーの現場において、バリスタ競技会は単なる勝敗を超えた「価値の可視化」の場だと語るTAOCA COFFEE代表・田岡英之さん。
今回は、競技会への取り組みと店頭での体験設計、そして世界初の全自動スペシャルティコーヒーマシン「FURUMAI」の導入に込められた思いを伺いました。

■ 豆売りのために競技会がある──プロフェッショナルとしての矜持

TAOCA COFFEEは、JBC(ジャパンバリスタチャンピオンシップ)をはじめとした4つの競技会で多数の予選通過者を輩出。物販店でありながら競技会に注力する姿勢には、明確な理由がありました。

「味を言語化し、それを液体で再現する力が問われる。実は“豆売り”だからこそ、バリスタのプロフェッショナル度が試されるんです」

顧客が家庭で淹れても味が崩れないよう、店頭販売用の焙煎ではストライクゾーンを広く設定。一方で競技用は、狭いレンジに最大限の美味しさを詰め込むアプローチを取っています。

■ “出場すること”の意義──社内外をつなぐ共通言語としての競技会

競技会を通じて得られるのは、技術だけではありません。

「スペシャルティコーヒーには“世界基準の味覚評価”があります。国や会社の枠を超え、同じ言語で語り合えるのが魅力なんです」

TAOCA COFFEEでは、アルバイトでも「出たい」と言えば競技会に挑戦できる環境を整備。その分コストも時間もかかりますが、それ以上の価値があると田岡さんは言い切ります。

全自動スペシャルティコーヒーマシン「FURUMAI」がもたらす新体験

南青山の新店舗では、世界初の全自動スペシャルティコーヒーマシン「FURUMAI」を設置。設定した味を忠実に再現するこのマシンは、バリスタの代替ではなく「バリスタが作った味を安定して届ける」ためのツールとして導入されました。

「大切なのは“誰がどう使うか”。ブレンドはマシン、シングルオリジンはバリスタと使い分け、労力を最適化しつつ体験価値は高く保っています」

■ FURUMAIで、スペシャルティをもっと身近に

“FURUMAI”では、お客様自身がボタンを押して抽出体験を楽しむことができ、一般的なドリンクバーとは一線を画します。

「ただ飲むだけでなく、“自分で選び、淹れる”という体験がスペシャルティの入口になると思うんです」

極浅煎りの豆であってもフレーバーをしっかり引き出せる設計で、味もぶれず、抽出時間も短縮。人手不足という業界課題にも応える新たな挑戦が、ここから始まっています。


【Part3】全種類試飲OK!?売れる仕組みと接客術|TAOCA COFFEE物販の極意

TAOCA COFFEEが展開するのは、単なる「販売」ではなく、「対話による価値提案」。
店頭では10種類以上のコーヒーが全て試飲可能で、スタッフが丁寧にヒアリングしながら一人ひとりの好みに合った1杯を提案しています。Part3では、その接客スタイルと“最高級ライン”である「ファーストクラス」の魅力に迫ります。

■ 全商品試飲できる、対話型の販売カウンター

TAOCA COFFEE南青山店のカウンターには、ブレンド・シングルオリジン・プレミアム・ファーストクラスと4つのグレードに分かれたコーヒーがずらり。
来店者は好みや気分に応じて、自由に試飲しながら商品を選ぶことができます。

「まずは“苦手な味”を聞く。そこから3択に絞って、選んでもらう。人は選択肢が3つあると、一番ストレスなく自分の選択だと感じられるんです」

この接客は、顧客の好みを丁寧に引き出す“対話型”の販売でありながら、自然と購買へと導く仕組みでもあります。

■ 冷めても伝わる品質──常温での試飲提供

カッピング同様、試飲用のコーヒーは常温で提供。これには理由があります。

「温かいうちは香りは良いけれど、味の違いが見えにくい。冷めても美味しい、だからこそ自信を持って常温で出せるんです」

科学的にも酸化は数時間では起こらないという知見を踏まえ、「最もわかりやすい味」で体験してもらうことを重視しています。

■ ファーストクラスラインと、農園への想い

TAOCA COFFEEの最高級ライン「ファーストクラス」は、パナマのレリダ農園やコロンビアのエル・ディビソ農園など、世界有数の農園から仕入れた希少なロットで構成されています。

価格は100gあたり5,000円以上──それでも購入者が絶えないのは、味のクオリティに加え、「生産地のストーリー」が丁寧に伝えられているから。

「ただ高級なだけじゃなく、どんな人が、どんな想いで作ったのか。それを説明できるように、僕は産地に行った夜、スタッフ全員にレポートを送っています」

店舗に立つスタッフも、その情報を共有し、熱量と共に伝えられるからこそ、商品は“ただの豆”ではなく“体験”として手渡されていくのです。

■ “社長が今、産地にいる”──その臨場感も価値になる

産地訪問の際は毎晩スタッフに向けたレポートを送り、しっかりと価値を届けるために社内研修も精力的に行なっている田岡さん。

「実際に“今うちの社長が農園にいます”って、スタッフが接客で話すこともあります。それだけでコーヒーが近くなるんです」

現地で撮影された写真やトレース可能なストーリーは、商品と消費者をつなぐ強い接点に。従業員全員がリアルタイムでその情報を共有しているからこそ、臨場感のある販売が可能となっています。


【Part4】高価格でも売れる理由とは?“FIRST CLASS”コンセプトで伝えるコーヒーの新たな価値|TAOCA COFFEEの販売戦略と今後のビジョン

TAOCA COFFEEが展開するハイエンドライン「ファーストクラス」。Part4では、田岡英之さん自らが淹れる“コロンビア・エルディビソ・オンブリゴン”を通して、その味わいの魅力、開発背景、そしてお客様への届け方に込められた想いを伺います。

■ “キャンディーのような甘さ”──Colombia El Divisoの衝撃

田岡さんが紹介したのは、100g 6,480円(税込7,000円)の高級コーヒー「エルディビソ農園のオンブリゴン品種」。ブルーベリーやヨーグルト、キャンディーのような甘さを感じられる1杯は、バリスタ競技会でも世界チャンピオンが使用するなど、国内外で評価の高いロットです。

「クリーンであるほど、フレーバーが明確になる。このコーヒーは、その美しさをはっきり感じられる1杯です」

■ 家でも再現できる、シンプルな抽出レシピ

豆14g・お湯210g・93℃──すべてのコーヒーに共通する「TAOCA流の抽出レシピ」。自宅での再現性を重視し、複雑なレシピをあえて避けている点に、田岡さんの哲学が表れています。

「測るのは最初は面倒。でも続ければ誰でも美味しく淹れられる。その体験こそが、コーヒーの価値を上げると信じています」

■ 価値の伝達は“ストーリー”で補完する

高単価なファーストクラスの販売において重要なのは、味だけでなく背景の説明。TAOCA COFFEEでは、スタッフが農園の情報や品種・プロセスを丁寧に伝えることを徹底しています。

「僕が産地に行った夜には、必ずスタッフ全員にレポートを書いて送ります。みんなが“今、社長が農園にいる”と伝えられるように」

この情報共有が、現場の販売力と信頼につながっています。

■ 自宅で飲む贅沢──ハイラインが売れる理由

ファーストクラスは、ギフト利用だけでなく「自分用」として購入する人が大半。1杯約1,000円で飲めるこのクオリティは、店内で同価格を払うのとは別の価値があります。

「カフェで1,000円のコーヒーを頼むより、家でゆっくり飲む1杯のほうが、ずっと贅沢だと思うんです」

■ “バリスタを職業に”──TAOCAが描く未来

TAOCA COFFEEの経営理念は「多くの人の心の温度を上げること」。
さらに、もうひとつのビジョンとして掲げるのが「バリスタを職業に」という言葉です。

「子育てや年齢を理由に、業界を去っていく人が多い。でも、バリスタが稼げる環境を作れば、未来は変えられると思っています」

その想いは、接客から仕入れ、競技会への支援にまで貫かれています。

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