エスプレッソで伝える、覚悟と哲学──REC COFFEE 岩瀬由和インタビュー
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Japan Barista Championship 2連覇、そして世界大会準優勝。日本を代表するトップバリスタにして、福岡を拠点に全国展開する「REC COFFEE」の代表でもある岩瀬由和さん。
本シリーズでは、彼の原点とも言える“スペシャルティコーヒーとの出会い”から、競技会に懸ける情熱、そして日々の抽出に込める細部へのこだわりまで──3本にわたってじっくりとお話を伺いました。
“町のコーヒー屋”として気軽に足を運べる存在でありながら、その一杯には世界基準の技術と情熱が宿っている──
岩瀬義和というバリスタの魅力が凝縮された全3回、ぜひご覧ください。
【Part1】「本物との出会いがすべてを変えた」──岩瀬由和の原点とエスプレッソへの覚悟
Japan Barista Championship 2連覇、世界大会準優勝──華やかな実績を持つREC COFFEE代表・岩瀬義和さんが、スペシャルティコーヒーとの出会い、そして“エスプレッソ”を軸に選んだ理由について、熱く語ってくれました。
■ エスプレッソとの運命的な出会い
「正直、最初はコーヒーにあまり魅力を感じていなかった」と語る岩瀬さん。そんな彼が、スペシャルティコーヒーと出会い、“味がある”“フルーティー”といったこれまでにない概念に驚き、深く引き込まれていきます。そして、エスプレッソこそがその魅力を最大限に引き出す手段だと確信。抽出技術・素材の理解・顧客体験、その全てが詰まったエスプレッソに人生を賭ける覚悟を持ちました。
■ コーヒーワゴンから始まった挑戦
「お金がないなら車で始めよう」と、コーヒーワゴンでの移動販売からスタート。技術も経験も足りない中、同時にJBC(ジャパンバリスタチャンピオンシップ)に挑戦し、客観的な評価と学びを得ることを重視。開業と競技の両立が、岩瀬さんにとっての原点となりました。
■ 「間口を広く、品質で勝負」──原点にあるポリシー
開業当初は、イタリアンソーダやシロップを使ったアレンジドリンクなども豊富に用意し、学生からお年寄りまで幅広いお客様を迎えるスタイル。移動販売という形態が“チープ”に見られがちな中、「サービスと品質では絶対に負けない」という信念が、今のREC COFFEEにも脈々と流れています。
【Part2】バリスタが競技会に挑み続ける理由と、“0.1g”の美学
Part 2では、「なぜバリスタは競技会に出るべきなのか」という問いに対する岩瀬さんの考え、そして研ぎ澄まされた練習哲学を伺いました。
■ 競技会に出ることは「最高の学びの機会」
「競技会は、年に一度のアップデートの場」と語る岩瀬さん。スペシャルティコーヒーを提供するうえで求められる、抽出技術、情報感度、そして接客の質。それらすべてを同時に鍛えられるのが競技会の舞台であり、自らの成長が最終的には顧客への還元に繋がる──そんな強い信念で、今もなお後進のバリスタたちに出場を勧め続けています。
■ “20g”ではなく、“20.0g”──味を変える「0.1」の意味
抽出の精度について、「20.0gと20.3gは別物」と語る岩瀬さん。数値に対する“解像度”を高めることは、味の違いを見極める力に直結するといいます。0.1gの違いがどれほど味に影響を与えるかを、リアルに想像できるかどうか。そうした意識の積み重ねこそが、トップバリスタとしての礎を築いてきたのです。
■ 練習は「量よりも質」──シャドートレーニングのすすめ
練習量も重要ですが、「常に目的をもって抽出すること」「本番をイメージして動くこと」が何より大切だと岩瀬さんは強調します。かつては資金や豆の制約も多く、実際に豆を使えない時間は“エアートレーニング”で補っていたというエピソードも。深夜のコインパーキングで英語のプレゼンを練習して警察に通報された話には、思わず笑いもこぼれます。
■ 「やめちまえ」と言われた日の、山のような牛乳パック
大会前には、1日数十本分のミルクビバレッジを作り、牛乳パックの山を築くほどの練習を繰り返した日々も。かつての阪本から「やめちまえ」と叱責された岩瀬さんは、悔しさをバネに技術を磨き上げ、後日その同じ指導者に「なかなかいいじゃん」と言わせたことで、大きな自信を得たと語ります。
■ 仲間と共に育つ、バリスタの文化
「社長である自分が、日中は経営をこなし、夜は朝まで練習する姿を見せることで、スタッフたちが自然と手伝ってくれるようになった」。そんなエピソードには、単なる技術習得にとどまらない、バリスタ文化の“継承”への想いも込められています。
【Part3】エスプレッソで引き出す、甘さ・酸・余韻の“黄金バランス”
Part 3では、競技会経験に裏打ちされた抽出技術と豊かな感性で、エスプレッソとミルクビバレッジの奥深さについて語っていただきました。
■ トップ・オブ・トップの豆で探る、最高の抽出ポイント
インタビューの中心は、ホンジュラス「ラ・コルメナ」──カップ・オブ・エクセレンス3位入賞のゲイシャを使ったエスプレッソ抽出。岩瀬さんは、グラム数や抽出秒数に縛られすぎず、「味のピーク」を見極めて止めるというアプローチを実践。甘さを引き出した前半の抽出と、酸の奥行きを際立たせた後半の抽出を比較し、そのわずかな差が余韻やフレーバーに与える影響を丁寧に分析します。
■ 「エスプレッソの味は、カップの形でも変わる」
抽出されたエスプレッソを味わうだけでなく、「どんなカップで提供するか」によって味の伝わり方が変わると語る岩瀬さん。カップの広さや厚み、口当たりの角度といった要素が、どのように甘さや香りに影響を与えるのか──。まるでワインとグラスの関係のように、エスプレッソにも“器”の選び方があるという視点は、まさに競技会から得た学びの結晶です。
■ ミルクビバレッジは「調和を楽しむ飲み物」
後半では、コスタリカ産ナチュラル・アナエロビックプロセスのゲイシャを使用したカプチーノを抽出。ミルクに合わせるコーヒーの選定や抽出量の微調整、さらにはスチーミング温度(理想は56〜57℃)まで、1杯に込める繊細な技術が紹介されます。
「ミルクビバレッジは、毎日同じ味である必要はない。その時々の調和を楽しむもの」と語る岩瀬さんの言葉には、スペシャルティコーヒーの可能性を広げようとする哲学がにじみます。
■ 町のコーヒー屋として、世界基準の味を届けたい
インタビューの最後では、「世界で楽しまれるコーヒーを、日本の日常にも届けたい」と語る岩瀬さん。競技会で培った技術をチームに継承しながら、気軽に立ち寄れる“町のコーヒー屋”として、確かな裏付けのある味わいを日々提供し続ける。その姿勢こそが、REC COFFEEの信頼の源となっています。